ツギノスマイ
リノベーション計画

#断熱で変わる暮らし  #バリアフリーな階段  #1F完結型の暮らし  #第二の暮らし  #ローコスト

定年を間近に控えたご夫婦のためのリノベーションである。子どもたちが独立し、これからはふたりだけの時間を、より自分らしく、心豊かに紡いでいける空間が求められた。

対象となったのは、郊外に建つ延床約80㎡の木造2階建て住宅。1階にLDKと水まわり、2階に3つの寝室という典型的な間取りだったが、子どもたちの巣立ちにより使われない部屋が生まれ、暮らしに余白ができていた。一方で、老朽化した設備や雨漏り、急勾配の階段など、将来への不安も顕在化していた。

そこで本計画では、間取りや機能を根本から見直し、変化するライフスタイルに寄り添いながら、心地よく、そして安心して暮らし続けられる住まいへと再構築した。40㎡x2フロアという限られた空間の中で、予測のできないこれからの暮らしに、どう寄り添っていけるのか。変化に抗うのではなく、しなやかに受けとめる「余白」としての空間。用途を定めすぎず、状況や心のうつろいに応じて姿を変えられる柔らかさこそが、日々の暮らしを静かに支えてくれると信じている。

DATE
用途:住宅
住所:埼玉県所沢市
規模:木造 2階
敷地面積:68.97㎡
建築面積:41.4㎡
延床面積:79.69㎡
設計期間:2024.9~2025.3
建設期間:2025.4~2025.7
施工:家づくり工房合同会社
写真:ゴトゴ

天井裏の梁を現しにして、広さと高さを感じられるリビング空間とした
補強梁によって柱をなくし、開放的でおおらかなワンルームへと仕上げた
床や壁、天井、建具枠に新しい素材と古材の味わいを取り入れ、懐かしさと新しさが調和する空間とした
リビングに立つ一本の柱が、かつての建物の記憶を今に伝えている
キッチンは奥の借景を取り込み、視線と風がゆるやかに抜けていく
システムキッチンと一体化したオープンスタイルのキッチン
接合部に金物を取り付け、構造的強度を高めた
旧建物から引き継いだ建具枠。不足部分は職人によって補われ、統一感のある仕上がりとなった。
二重サッシで家全体の開口部を強化し、冬は暖かく夏は涼しい快適な空間を実現
1Fは構造用合板仕上げでラフな雰囲気に統一。棚づくりや手すり設置など、趣味のDIYや将来の変化にも対応しやすい。
スモールリビング越しに家族の気配が感じられる
スモールリビングとつながり、風通しの良い洗面室
スモールリビングを介し、程よい距離感を保った2つの寝室
カーテンによってスモールリビングと各室が柔らかく仕切られる
将来の1階完結型の生活を見据え、キッチン仕様とした洗面スペース
断熱仕様の玄関扉とすることで、玄関も居室の一部として扱えるようにした
段数を4段増やし階段の勾配を緩和。柱には従前の勾配の跡が刻まれている

リノベーション概要

1)変わりゆくライフスタイルへの対応
当初、クライアントの希望は「1階完結の暮らし」だったが、面積の制約から実現は困難だった。そこで、将来の変化に柔軟に対応できるよう、以下の3点を軸に住空間を再構成した。

柔軟な共有空間「Small Living」
1階の中央に多目的スペースを設け、家事・来客・趣味など用途に応じて機能を変えられる中核空間とした。将来的にはここを中心に生活を完結させることも可能。

緩やかな階段計画
既存の急な階段をバリアフリー対応に改修。上下階の移動を負担なく行えることで、1階完結にこだわらない暮らし方を提案。

・明るく開放的な2階LDK
天井を撤去し、高さと光を確保。出窓も活かし、以前の暗く手狭なLDKから、可変性の高い快適なワンルーム空間へ再構築した。

2)住まいの快適性と省エネルギー性を高める断熱改修
断熱改修は、本計画の核となるテーマであり、クライアントからの最優先の要望でもあった。現地調査の結果、床下・壁・天井において断熱性能が十分でなく、断熱ラインに欠損が見られることが判明。「夏は暑く、冬は寒い」という住環境の課題が明らかとなった。こうした状況に対し、以下の改修を実施することで、これまで空調のある一部の部屋に限られていた生活領域が、家全体へと広がり、どこにいても快適に過ごせる住まいを実現した。

断熱材の施工と気密化(床・壁・屋根)
現時点で住宅用に採用可能な高性能断熱材を全面的に導入し、建物全体の断熱性能と気密性を大幅に向上させた。

内窓(二重サッシ)の設置
コストと性能のバランスを考慮し、既存のサッシを残したまま室内側に樹脂製の内窓を設置。これにより、開口部の断熱性と気密性を効果的に強化した。

3) 構造補強による安全性の確保
改修前の躯体は、壁量は概ね確保されていたものの、金物の不足や接合部の不良が確認され、構造的に複数の課題があった。コストと工期の制約を踏まえ、以下の最小限かつ効果的な補強を実施し、構造全体の耐震性を高めた。

・基礎と柱・土台の緊結強化
基礎の健全性に一定の制限はあるものの、既存基礎に対して土台および柱との緊結を追加し、耐力壁が機能するための構造的連続性を確保。

・引抜力が作用する可能性のある部位に金物を追加
柱脚・柱頭に引抜き抵抗用の金物を設置し、接合部の耐力を確保。

・外周部に面材耐力壁を配置
 バランスを考慮して構面を構成し、従来の筋交いよりも高い剛性と耐力を確保。

・2階床の水平構面化
 既存床の上から構造用面材を施工し、水平剛性の向上と耐震時の変形抑制を図った。

4)自然素材と経年美を活かした住環境
高気密化が進む近年の住宅においても快適な室内環境を保つため、調湿性や空気浄化性能に優れた自然素材を積極的に採用し、健やかな住まいを目指した。また改修に当たり、これまで隠れていた柱や梁をあえて現しとし、経年変化によって深みを増した木の風合いを空間に取り込んでいる。長年の暮らしの記憶を受け継ぎ、これからの時間を共に育む、新築では得られない、リノベーションならではの価値を大切にした。